連載
なぜ旅客機は超音速で飛ばないのか。衝撃波が飛行にもたらす影響~ 連載【月刊エアライン副読本】

【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
ジェット旅客機の巡航速度は、「マッハ0.83」のように音速(マッハ1)を基準にした単位で示されることが多い。ただし空気中の音速は温度によって変わるため、「マッハ0.83は時速何kmである」などと単純に言うことはできない。
たとえば摂氏0℃のときのマッハ1は時速約1193kmだが、10℃高くなるごとに時速21.6kmずつ速くなり、逆に温度が低くなると遅くなる。
それでもマッハという単位を使うのは、音速を境に空気の流れの性質が変わってしまうからだ。音速に達すると衝撃波が発生して、飛行にも大きな影響をおよぼす。そのため速度をマッハで表して、音速までどのくらい余裕があるかを知ることが大切になるわけだ。
それにしても、なぜ「音の速さ」がそれほど重要な意味を持つのだろうか。
音は空気中を伝わる波だ。密度の変化による縦波(疎密波)なので、海で見るような横波ではないが、その伝わり方は水面の波紋のようなものをイメージしてもいい。
物体が動くと押された空気は密度が高くなり、それが周囲に広がっていく。その周波数によっては音として聞こえることもあるが、聞こえない場合でも伝わる速度は同じだ。
つまり音速というのは、「音」として聞こえる聞こえないにかかわりなく、空気中の密度の変化が伝わる速度のことなのである。
そして飛行機が進むと、前方の空気は押されて密度が高くなり、それが音速で広がっていく。ところが飛行機の速度が音速に近づくと、前方の密度の高い空気は逃げる間もなくさらに押されて密度を増し、飛行機が受ける抵抗も急増する。
それを避けるために現代のジェット旅客機は音速より遅い速度(亜音速)で飛ぶようにしているが、何も対策をしない場合にはマッハ0.7くらいでも音速の影響を受けてしまう。飛行機自体は亜音速でも、局所的には気流が加速されて超音速に達して衝撃波が発生してしまうからだ。
しかし、速さは旅客機の重要なセールスポイントのひとつだ。音速以下であるにしても、できるだけ速い方がいい。後退翼はできるだけ高速まで衝撃波が発生しないようにする工夫だが、翼断面(翼型)でも衝撃波の影響を小さくすることができる。
その代表的なものがスーパークリティカル(超臨界)翼で、衝撃波を弱め、また発生する場所を後方にすることで影響を小さくできる。その結果、現代の旅客機はある程度の衝撃波を伴いながらも安定して飛行できるようになっている。
ここに掲載した写真は、ヨーロッパから日本に飛ぶボーイング787の主翼だ。
上空には影を作るような雲はないのに、細長い影がのたうっている。かすかな影だが、画像処理によってコントラストなどを調整すると、よりはっきりと見えるようになる。
光は密度によって屈折率が変わるために、衝撃波のように急な密度の変化が光の濃淡として見えるようになったのだ。また撮るタイミングによって影の位置が異なっていることからも、この影がフラフラと動いていることがわかるだろう。
滅多に見られるものではないが、「窓側席でも翼の上は退屈だな」というときには、むしろチャンスと思って目を凝らしてみるのもいい。
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