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Panasonic Avionics、大阪・門真工場の拡張を完了。機内エンタメ「Astrova」の受注拡大に対応

パナソニック アビオニクス(Panasonic Avionics)は10月23日、国内外の航空会社から受注した機内エンターテインメントシステムを一貫生産する、大阪・北門真拠点のアビオニクス工場を拡張。需要の増大に応える生産体制を整えた。

文:多和田新也(編集部) 写真:多和田新也(編集部)
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Panasonic Avionicsの機内エンターテインメントシステムを一貫生産する北門真拠点の工場。

 パナソニック コネクト内で航空機向けシステムを手がけるパナソニック アビオニクス(Panasonic Avionics)は、大阪府門真市にある北門真拠点の工場拡張を完了した。10月23日にその開所式を開くとともに、関係者に工場を公開した。

 パナソニックグループのアビオニクス事業は、1976年に発売された「ペッパーラジオ」の小型・軽量化技術を起点とし、1978年にJALとプロジェクトを開始した歴史を持つ。製造に関しては、航空機特有の厳格な基準に対応するため、松下電器産業の発祥の地である北門真拠点で一貫して行なわれている。今回の拡張により、施設規模は従来の約2倍となる10,000m2へと拡大した。

 この工場拡張は、同社が展開する最新の機内エンターテインメント(IFE)システム「Astrova(アストローバ)」に対する需要拡大へ対応するためのものである。

 Astrovaは、13インチから42インチまで7つのモニターサイズを揃えている。解像度4KのOLED(有機EL)ディスプレイを採用。コントラストの高い映像を提供する。機内エンターテインメントに必要なプロセッサなどのシステムを座席下のボックスに集約したことで、シート裏のモニターユニットを薄型化し、システム全体で約30%の軽量化を達成した。

 さらに、モニター下部は着脱可能なモジュラー構造の「ペリフェラル・バー」となっており、USB Type-CやBluetoothなどのインターフェイスを航空会社の要望に応じて変更したり、座席自体を交換することなく、将来の技術進化に合わせて段階的にアップグレードしたりできる。

Panasonic Avionicsの最新IFE「Astrova」。

 今般の拡張では、45のエアラインから50万席分以上を受注するAstrovaの需要増に対応するため、大阪・門真工場では、生産スペースを約1.8倍に拡大した。

 基板を実装するSMT(表面実装技術)ラインは従来の2本から4本へと倍増。SMTのフロー途中に移動式のコンベアを導入し、長大なSMTのマシンの途中を通り抜けることができるようにすることで、作業の効率を高めるよう動線が工夫されている。SMTマシンとしてパナソニックグループ製の設備が使用されている。基板実装後には、液体の付着による電気ショートを防ぐため防水コーティングが施され、ブラックライトで塗布状態が確認される。

 さらに製造工程における、OLEDとタッチパネルの間にあるエアギャップをなくすオプティカルボンディングも導入し、光の映り込みを抑えて画質を高めている。当初は大型モニターにタッチパネルを取り付ける需要が少なかったため、社内で治具を自作して内製によるモノづくりを開始した経緯を持つ。接着剤は紫外線(UV)によって硬化することから、作業エリアにはUVカットを施した照明が使用されており、独自のノウハウを用いて大型モニターとタッチパネルの貼り合わせを行なっている。

 Astrovaの完成組立ラインは、1本のラインで設備を切り替えて行なっていたバッチ生産から、現場での改善を通じて段階的に増設を重ね、最終的に6本のラインへと拡大された。1本目と2本目のラインで着脱式のペリフェラル・バー、3本目のラインで13インチをはじめとするモニター、4本目と5本目のラインでシート電源ボックス、6本目のラインでリモートジャックを製造する構成となっている。機能ごとに専用ラインを割り当てることで、工程の切り替えに伴うロスをなくし、安定して供給できる生産体制を整えたのである。

 すべての作業台の上部にはカメラが設置され、作業者の動作や作業時間をすべて録画・データ化してトレーサビリティの確保と工程改善に役立てている。

北門真拠点内のIFE製造施設が入る工場。
基板を製造するSMTラインと基板組立のエリア。SMTラインは4本に増強され、ライン間も移動しやすいよう工夫されている。
基板を製造するSMTラインと基板組立のエリア。SMTラインは4本に増強され、ライン間も移動しやすいよう工夫されている。
OLEDパネルとタッチパネルを取り付けるオプティカルボンディング工程。真空環境下で貼り合わせる独自の設備を有している。

 また、同拠点では、生産スケジューリングの最適化に向けてBlue Yonder(ブルーヨンダー)のシステムを導入し、2026年9月に本稼働させた。加藤氏によると、工場の生産計画には「販売用」「修理」「スペアパーツ」の3つの柱が存在し、顧客の優先順位や機種、台数は日々変動している。特に「いつ壊れるか想像がつかず、突然オーダーがやってくる」というスペアパーツへの対応では、Blue Yonderの導入によって各オーダーに対する最適なスケジュールが自動で提案されるようになり、その提案をもとに担当者が工場側と連携して調整を行なうことで、生産スケジュールの最適化を図っている。

 製品の品質を保証する検査工程では、航空業界特有の要求基準に対応した試験と、社内検査員による承認が行なわれている。信頼性や耐久性の評価では、温度と振動を同時に加える加速試験のほか、自動装置を用いてケーブルを繰り返し屈曲・牽引する試験。また、高温高湿の槽内にモニターを投入して動作を確認する検査や、高温下で約30年分の寿命を検証するような試験も行なわれる。

 製造エリアに隣接する倉庫では、世界8か所のサービス拠点に向けた保守用パーツが保管・管理されている。航空機が20年から30年にわたり長期間運用されることに対応し、同拠点では過去の製品を含めて長期にわたってパーツを保管し、年間約100万個のパーツを出荷している。担当者は航空機が飛び続ける限り部品の供給を続ける姿勢を示し、加藤氏は「結婚したら離婚できない」と表現するように、一度採用された製品に対して20年から30年にわたり責任を持ってサポートを継続する体制が敷かれているのである。

 また、航空機向け機器は安全要求が厳しく、すべての工程で認証が求められる。北門真工場にはアメリカ連邦航空局(FAA)のライセンスを保持する社内検査員が常駐しており、PMA(部品製造業者承認)検査を自ら実施している。これにより、完成した製品をアメリカへ送ることなく、直接世界各地の航空会社へ出荷できる体制を整えている。

高温・高湿、振動、ケーブルの屈曲・牽引などの各種検査のほか、高温・高湿環境で長時間稼働し、機器が壊れる寸前を見極める検査などが実施されている。
機器が動作している限りはパーツを提供できるよう、20年、30年と長期にわたってサービスパーツが保管されており、年間3,000種、100万個のパーツを、世界8拠点の修理センターや航空会社へ供給している。
FAA(米国連邦航空局)から権限を移譲された認定検査員が在籍しており、この地で検証を完了させ、直接出荷できる体制となっている。

 今回の拡張工事は、航空会社への納入を維持しながら進められた。アビオニクスビジネスユニット マネージングダイレクターの加藤大地氏は、「生産を止めずに増産をし続けるということが一番の大きな苦しみだった」と振り返る。

 新たな場所へ新規に設備を納入するわけではなく、生産が行なわれる日には設備を停止できないため、ゴールデンウィークや夏期・冬期休暇の年3回のタイミングに合わせて設備の移設を進めた。例えば、約300名がデスクワークを行なう事務所を敷地内の他棟へ移転し、その空いたスペースに製造ラインを移設・拡張する、といった形で少しずつ余地を作りながら拡張を進め、2年以上の期間をかけて完了させた。

 加藤氏は「品質は事業の命 顧客の信頼が明日の事業を支える」という方針のもと、航空機が使用される20年から30年という期間にわたり製品を支え続ける姿勢を説明した。

 現在工場は2シフト体制で稼働しているが、今後のさらなる増産に備えて深夜を含む3シフトに対応できる余力も確保されている。

 また、スターリンクなど高速な機内インターネットの普及が進む市場環境について加藤氏は、機内エンターテインメントシステム(IFE)を「PC、スマートフォンに続く3つ目のデジタルチャンネル」と位置付け、エアラインと顧客のエンゲージメントを高めるものとしての価値を強調した。機内モニターを通じて航空会社のマイレージプログラムやショッピングなどの利用を促し、航空会社の付随的収益にも貢献できることから、IFEと機内通信は競合するものではなく、相互に価値を高め合う関係にあるとの見解を示した。

新工場の開所式と従業員を大切にする文化

 工場の拡張完了に伴い、10月23日に北門真拠点で開所式が開催された。式典においてパナソニック コネクトCEO 兼 Panasonic Avionics CEOのケン・セイン氏は、「1979年以来、Panasonic Avionicsは機内エンターテインメントシステムの世界的なリーダーである」と述べたうえで、「2027年3月までには、毎日300万人以上の乗客がAstrovaを利用することになる」と語り、需要の拡大を示した。

開所式には製造パートナーや地元自治体関係者のほか、工場で働く多数の従業員も出席した。
パナソニック コネクト CEO 兼 Panasonic Avionics CEOのケン・セイン氏。

 続いて登壇した加藤氏は、門真の地で45年間にわたり機内エンターテインメント機器を生産し続けてきた歴史に触れ、「現場の多くの方々が話し合い、工夫し合い、ここまで成長できた」と現場の従業員に謝意を伝えた。

 質疑応答の場では、生産量拡大を目指すうえで、移転するのではなく門真にとどまった理由について問われ、加藤氏は、45年以上にわたり培われた品質へのこだわりと伝統を継承する従業員の意識が根付いている点、別の場所へ新設・移転した場合は生産地コードの変更や航空業界特有の認証手続きを改めて行なう必要が生じ、顧客へ迷惑をかける懸念があった点、そして京阪電車と大阪モノレールが乗り入れる門真市駅から至近距離という立地条件の良さが若い世代を中心とした採用面での優位性につながる点の3点を挙げた。そのうえで、敷地内の建屋間でスペースを融通し合うことで、この場所を動かずに増産へ対応する判断に至ったと説明している。

 来賓としてあいさつした宮本一孝 門真市長は、「門真神社の前で生まれ育ち、門真小学校、第六中学校に通い、この工場エリアを眺めてきた」と自身の経歴を語り、「高い技術力を世界へ発信していくことが、市のさらなる発展につながる」と述べた。

パナソニック コネクト 執行役員 ヴァイスプレジデント アビオニクスビジネスユニット マネージングダイレクターの加藤大地氏。
門真市長の宮本一孝氏。

 同社の基盤には、「ハッピーコリークス(仲間の幸せ)」を重視する企業文化が存在する。加藤氏は「まずは一緒に働いている仲間の幸せを満たす。それによって顧客やパートナーに幸せが伝播していく」と語る。拠点内では、リーダーからの情報発信や、自ら手を挙げてアメリカやシンガポールの拠点に赴く「ワーク・イン・US」などのプログラムが導入されている。

 さらに、役員と社員が直接対話するダイレクトトークや、他部署との交流を促すスタンプラリー、なわとび大会など、組織の透明性と一体感を高める取り組みが行なわれている。毎週水曜日には「ABC(アビオニクス・ビジネス・カレッジ)」と呼ばれる勉強会が開催され、社員やパートナー企業が共に航空業界の専門知識や品質要求を学んでいる。

 加藤氏は、従業員が安心していきいきと力を発揮できる環境を整えることが、高品質な航空機用電子機器の生産を支える要素となっていることを強調した。

開所式と併せて行なわれたテープカットセレモニー。