連載
パイロットも憧れるジャンボ。ルフトハンザのボーイング747-8に搭乗! 〜連載【パイロットが乗客に! マニアック搭乗記】
パイロットにとっても特別な存在、747
パイロットとしても、747は別格の存在です。空港で747を見るだけでその存在感に圧倒されますし、フォルムには他を寄せ付けない優雅さを感じます。上空でも4本のコントレールを引きながら、悠々と他機を追い抜いていく様は「やっぱりジャンボには敵わないなぁ」と思わせますし、747がタービュランスレポートを送ってくると「あのジャンボでも揺れるんだから気をつけないと」と警戒します。
かつて日本国内を747がたくさん飛び回っていた時代、高高度で管制から減速指示を受けた747が「Unable, our minimum mach number is M.82(減速できません。最低速度はマッハ0.82です)」と答えていたことを思い出します。私が当時乗務していた飛行機が出せる最高速度が、彼らの最低速度か……と驚いた思い出があります。それほど高速性能に優れた旅客機なんです。

その「高速性能」ですが、こんなお話があります。我々パイロットにとって大切な経歴の1つに、飛行時間というものがあります。電子的に管理している会社もあれば、昔ながらのフライトログブックに手書きで書き込む形で管理するところもあるのですが、自身の飛行時間はそのままパイロットとしての経験値となります。その飛行時間の視点からは、747の場合は巡航速度が速いため、パイロットにとっては経験値を積み上げづらい飛行機ということもできます。そんな中、「長距離国際線といえば747」の時代を駆け抜けてこられた大先輩方の総飛行時間が2万時間以上! と聞くと、その重みは相当なものに感じられます。マッハ0.80未満で巡航する小型機も長距離国際線を飛行できる現代ならば、彼らの飛行時間がもっと伸びていたのではないかと思うと、大先輩方への尊敬は止まらないものです。
さて、747のパイロットにその操縦感覚を聞くと、巡航中は空気を切り裂いて進む、まさにクルージングのようなイメージで、着陸進入時のラフエア(乱気流)での安定性は抜群といいます。皆が口を揃えて「今まで乗務した中で最高の飛行機は747だ」と言わしめる魅力が747にはあるんですね。パイロットにも愛される操縦感覚を持つ747は、やはり傑作機なんだなぁと感じるエピソードです。

末長く人々を惹きつけて欲しい、最新の747
長時間の巡航を終え、着陸準備に入りますが、梅雨空にもかかわらず全く揺れることもなく、曇った羽田空港のRWY22にスムーズに着陸。着陸後には友人の計らいでコクピットに入れていただきました。747-400のコクピットには昔入ったことがあるのですが、-8はもちろん初めてです。
-400からさらに延長されたアッパーデッキを抜け、コクピットへ入った第一印象は「本当に狭い」でした。特にオーバーヘッドパネルが頭上のすぐ近くに迫り、圧迫感さえ覚えます。ワイドボディー機とは思えないタイトな空間で、かなり特殊なコクピット環境です。横幅は狭いですが、縦の奥行きが結構あるのは、昔の747-300まではFE(航空機関士)席があった名残です。また操縦面では、アッパーデッキに位置するコクピットは視線位置が他機よりも高く、慣れるまで着陸のフレア操作なんかが難しいのではないかとも感じました。

しかし、これらすべてが747にしかない特徴で、この空間に座ることができるパイロットは今の時代、本当に限られた人数しかいないことを考えると、このタイトな空間も愛すべき存在であることを実感しました。ディスプレイ類は777に準じて液晶化され、ボーイング機らしい見慣れた光景です。親切な運航乗務員の方々と少しお話をし、747を後にしました。
最新鋭機と比べると、どうしても騒音や機体システムの点で古さを感じざるを得ないのですが、かつての国際線の花形であった747-400に、最新鋭機787の技術を限られた範囲ながら投入してアップデートした747-8。快適性を増しながらも747独自の乗り味を引き継ぐ美しい空の女王です。威風堂々で凛とした佇まいは見る人の心をひきつけ、その乗り心地、機内各所に見られる独自性が他機種とは一線を画した特別なものに映り、また乗りたいと思わせます。

関連記事
関連キーワードもチェック!
関連リンク