連載
ルフトハンザ・エアバスA340-300のコクピットに乗って、フランクフルトへ【パイロットが乗客に! マニアック搭乗記】
現役の機長が1人の乗客として海外エアラインのフライトに搭乗し、パイロットならではの専門的な視点でその模様を紹介する本連載。第5回となる今回は、コクピットへ潜入した特別なレポートです。いつものような天気の予想などは抜きに、単純にA340-300という絶滅危惧機種とその運航を深く掘り下げます。

数を減らす超ロングレンジャー、エアバスA340
思えば、A340は1993年、A330は1994年のデビュー。ボーイング747-400の登場によって超長距離をノンストップで飛行できるようになったあとにエアバスが市場に投入したこの2機種は、同じ機体サイズと翼を持ち、大きく違うのはエンジンの数のみです。そして、747-400を超える超ロングレンジャーの役割を担ったA340は、数多くの航空会社が導入しました。
747-300のアップデート版である747-400と比べて、新規開発のA340には当時最新鋭の機能がたくさん装備されていました。エアバスが自信を持つエコノミークラスの2-4-2配列を可能にする胴体はA300と共通ながら、フライバイワイヤの操縦系統や客室のフレキシビリティー、静粛性など、747-400より優れた部分が多々あったのです。

またエアバスはボーイングと違って、コクピットの機種間統一の考え方を早くから持っていた会社ですので、A340は先に登場したA320とほとんど同じコクピットを装備して、パイロットの移行訓練期間を短縮しました。その兄弟機であるA330が現代まで製造される長寿モデルになっていることからも、さまざまな形で時代を先取りしたこのコンセプトが大成功だったと言っていいのではないでしょうか?
しかしながら、現在ではボーイングの777や787、同じエアバスでもA330やA350に主役の座を奪われ、現役でA340を飛ばす会社は非常に少なくなっています。その理由は、やはり4発機の燃費の悪さとメンテナンスコストです。そんな貴重なA340の中でも、最も多く製造されたA340-300に、今回は搭乗します。

レトロな機体、それを大切に使い続けるルフトハンザ
機内に入ると、最近のエアバス機と比べると少しレトロな雰囲気で、オーバーヘッドストウェージ(OHS)のサイズも小さめです。その下に装備される読書灯ユニットの特徴的な型には懐かしさすら覚えます。

フライト中は非常に快適で、前方座席ではありますが騒音もそれほど大きくなく、窓から見える4つのエンジンが何より安心感と贅沢感を演出してくれます。かつての国際線の主役、ウルトラロングレンジャーのキャビン環境は未だ一級品。時代に合わせてアップデートされてはいますが、至るところに90年代の装備を残しているのです。暖かいイメージの電球による読書灯、蛍光灯を使用した機内照明、オレンジ色をしたシートベルトサインなどを見ると、「24年間頑張ってきた機体なんだなぁ」としみじみ思います。
この古い機体を未だに現役で使い続けるためには、ルフトハンザドイツ航空の確かな技術力が必須でしょう。他社が燃費の良い機材にどんどん更新していく中、同社は4発機へのこだわりがあるのか、あるいは減価償却が終わった飛行機を使い続けることで利益を出す方針なのかもしれませんね。なかなか興味深い会社です。

A340の特等席からフライトをオブザーブ
さて、今回のフライトは、とても特別なレポートとなります。というのも、コクピットクルーに私が現役の機長であることを伝えたところ、コクピットオブザーブをさせていただいたほか、さまざまな情報を提供してくれたからです。日本の航空会社ではまずあり得ないことですが、海外、特にヨーロッパの航空会社はこのあたりはとても融通が効きます。もっとも、今回は私が昔から知るクルーが乗務していて、私の素性を十分知ってもらっているからこそ実現した特別なケースです。ここからはコクピットで感じたA340の運航についてお話していきましょう。

まず出発に際し、中国の空港ではよくあることなのですが、プッシュバックの準備ができて管制にコンタクトすると、20分のディレイを言い渡されました。理由は航空路の混雑だったり軍事演習だったりするのですが、何にせよ出発までお客様をお待たせすることになりますし、APUによる燃料消費量も増えるので、パイロットにとってもプッシュバック直前のスタンバイはできるだけ避けたいところです。他国ではTSATやTOBTといって、管制機関と航空会社があらかじめ出発時刻の調整を実施ことが多いため、あまりこのようなことは起こりません。中国ならではとも言えますが、中国路線には常について回る悩みのひとつです。
やっと地上でのスタンバイも終わり、無事プッシュバックが完了し地上移動に入ります。コクピットから見る北京空港もまた本当に広くて立派です。誘導路も(当たり前なのですが)まっすぐで、駐機場もまだまだ増便の余裕がありそうでした。さらに北京にはもうひとつ大規模な空港があるということで、改めて中国の国力には脱帽です。

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いよいよ離陸! 管制官から急かされるほどゆっくりな上昇率
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