連載
進入管制区、その中の特別管制区とは。空の安全を守る空域の話(2)~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
空はさまざまな空域に分割されているが、旅客機のパイロットはあまり気にしていないかもしれない。原則としてIFR(計器飛行方式)で飛ぶ旅客機には、出発前にATCクリアランス(管制承認)として目的地までのルートと高度があてがわれる。それはさまざまな種類の空域を通るものだし、飛行中にはタワー、デパーチャー、コントロール、アプローチというように管制官も引き継がれるが、基本的にはどこでも「ご予約のお客様ですね。どうぞこちらへ」といった感じでスムースに導かれるからだ。旅客機をそのようにスムースに飛ばすために、さまざまな空域が設定されているのだと考えてもいい。
しかし、軽飛行機などのVFR(有視界飛行方式)機はそうはいかない。「ここは管制圏だから入る前に許可を取らなくてはならない」とか、「この先は進入禁止だから入らないようにしなくてはならない」といったことに常に注意を払いながら飛ぶ必要があるのだ。
そうした空域には、前回説明したような飛行場を中心とした管制圏のほか、その周囲に広がる進入管制区(Approach Control Area)がある。半径は広いところでは約100km。旅客機のようなIFR機を順番に最終進入コースに並べ、また出発機を安全に航空路へと上昇させていくための空域だ。進入管制区内はVFR機でも飛ぶことができるが、混雑した空港の最終進入コースなどひっきりなしに旅客機が飛んでいるところはさすがに危ない。
そこで、進入管制区の中でもそうした空域をPCA(Positive Control Airspace。特別管制区)として、VFR機は許可なく入ることができないようにしている。許可を取れば入れるわけだが、よほどの理由がなければ許可されないから実質的にはVFR機は飛行禁止と考えていい。
ただし、それほど交通量が多くない地方空港などではVFR機を制限するほどではない。かといって旅客機の接近に気づかないVFR機がうろうろするようでは危ない。そこで進入管制区内にはTCA(Terminal Control Area)も設定されており、VFR機に対するさまざまな情報提供を行なっている。VFR機はTCAとの交信を義務づけられているわけではないが、積極的に「ここを飛んでいますよ」と伝えて周波数を合わせておくだけでも、周囲の航空機の情報なども伝えてもらえるのでより安全である。
また空域には、訓練試験空域もある。これには自衛隊や米軍が使う軍用空域(民間機は原則飛行禁止)と民間用の空域とがある。たとえば急旋回や失速からの回復操といった訓練は、こうした空域で行なうことになっている。広場を区切ってダンスの練習をするようなイメージで、空域を管理する福岡のATMC(航空交通管理センター)で予約を取って利用する。
ただしあまり排他的な空域ではなく、同じ場所で訓練を行なえるのは1機だけだが、通過するだけならば予約や許可なしに飛ぶことができる。それでも訓練空域として設定されていれば、そういう広場を横切って歩くのと同じ程度には注意して飛べる。少なくとも往来で突然ダンスをはじめられるよりは安全だし、通過機も空域を管轄する周波数をモニターしておけばより安全に飛ぶことができるだろう。
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