特集/本誌より
ダグラスDC-8 - 幕開けたジェットの時代、あふれる名門の熱情と先進性(5)
特集「Jet Airliner Technical Analysis」
ストレッチのお家芸
1960年代になると旅客需要の伸びで、DC-8のキャパシティ不足を指摘する声がエアラインから上がるようになる。そこでダグラス社ではDC-8の胴体のストレッチを計画した。
もともとストレッチはダグラス社の得意技だった。DC-4からDC-6、DC-7への進化も、基本的に同じ断面の胴体を延ばして、一回り大きな主翼と組み合わせていったものだ。
DC-8-61通称スーパー61は、DC-8-55の主翼とエンジンに、主翼の前側で6.10m、後ろ側で5.08m延長した胴体を組み合わせた型で、キャビン最後尾の圧力隔壁を半球から平板に変えることで、キャビンは12.4mも長くなっている。客席数は一気に4割も増加した。なお60番台のシリーズからは座席が他のエアライナーと同様のものになって、読書灯やエアコンの吹き出し口や酸素マスクは頭上に移された。1966年3月に初飛行し、翌年1月に引き渡しを開始している。
DC-8-61が客席数を増した中距離型(主にアメリカ国内線用)とすれば、DC-8-62は空力を洗練させた長距離あるいは超長距離型だ。DC- 8-62の最大航続距離(ペイロード無し)は地球3分の1周に相当する1万3675㎞に達し、西ヨーロッパからアメリカ西海岸へも余裕で直行出来るようになった。
スーパー62の空力的改善は、主翼端の0.91m延長や抵抗の小さいエンジン・ポッド、主翼上面まで回り込まないカットバック・パイロンなどだ。一方胴体の延長は前後合わせても2.03mに留まっている。1966年8月に初飛行して、翌年5月に引き渡しを開始した。
DC-8-63は、スーパー61の長胴とスーパー62の空力を組み合わせた長距離型と思えばよい。スーパー61とほぼ同じペイロードでも航続距離は約1500㎞も延びている。離陸重量はDC-8シリーズ中最も大きい。スーパー60シリーズではいちばん多くが生産され、貨物型や貨客型もよく売れた。1967年4月に初飛行して、翌年2月から就航している。
DC-8の70シリーズと呼ばれる型は新規生産ではなく、60シリーズのエンジンを燃費の良いCFM56-2ターボファン(98.5kN)に換装した、リエンジン型だ。1980年代に各型合わせて110機が改修された。航続距離が20%以上も延びただけでなく、離着陸時の騒音も目立って低下した。
DC-8ストレッチ型の好評にボーイング社でも追随しようと考えたが、707は脚柱が短いので、胴体を延長すると離着陸時に尻餅をついてしまい、大きな引き起こしが出来なくなる。結果的にボーイング社では707の乗客数増加型を諦めて、代わりに747の開発へと向かうのだが、仮に707のストレッチ型が可能であったとしたらボーイング社は1960年代後半に超大型ジェット・エアライナーを開発せず、大量輸送時代の到来はもっと後になったかもしれない。
ストレッチ型を造らずとも707の生産総数は857機にもなり、準同型機の720を加えれば1011機にも達した。DC-8の生産は556機に留まった。最後のDC-8(-63)は1972年5月にSASに引き渡された。
DC-8は技術的にも商業的にも失敗ではないが、エアライナー界の王者として君臨していたダグラス社がこれ以降ボーイング社の後塵を拝することになった。チャンピオンと挑戦者が入れ替わったのだ。
ダグラス社にとっての何よりの勲章は、2010年時点でも生産機の1/3近くがまだ現役(ほとんど貨物型だが)であったという事実だろう。現役の707は生産数の1割にも満たない。DC-8は堅牢で経済的で使い勝手が良いというダグラス・エアライナーの評判を裏切らない機体だった。DC-8-62/-63の比較DC-8主翼の変遷DC-8の主翼は、通算148号機から前縁を延長することで速度性能を改善し、またDC-8-62/-63では翼端を延長することで、さらに空力性能を向上させた。
(完)
※ この記事は本誌連載「Jet Airliner Technical Analysis」、小社刊「ジェット旅客機進化論」より抜粋、再編集したものです。
ジェット旅客機進化論
著者:浜田一穂 著
出版年月日:2021/09/27
ISBN:9784802210706
判型・ページ数:A5・548ページ
定価:2,860円(税込)
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