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ANAのパイロットが空から伝えるメッセージ。写真絵本「そらのえのぐ」が生まれたわけ

ANAグループ社員の空の写真が集まった絵本「そらのえのぐ」が発売された。この絵本はパイロットの発案で生まれたもので、実は無料で見られる第1弾に続くもの。果たして、どのような想いで絵本を作ろうと至ったのか。

文:本誌編集部 写真:本誌編集部
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 ANAグループの社員が撮影した写真絵本「そらのえのぐ」が、株式会社フレーベル館から発売された。この本がテーマとする「空から絵の具をとりたい」という発想は、ANAのパイロットが子供のころに思い描いていたものだという。

 実は、今回発売となった絵本はこのテーマを元にした絵本としては2作目で、2024年12月から機内エンターテインメントで見られるデジタルブックとして、1作目となる「そらのえのぐ」が提供されていた。この第1弾の「そらのえのぐ」はANAのWebサイトで閲覧可能だ。

 いったいどのような背景があってパイロットが絵本を作ることになったのだろうか。ここでは、発案者であるANAフライトオペレーションセンター マネジャーでボーイング767の機長を務める古田雅之氏と、第1弾「そらのえのぐ」の制作に携わった客室乗務員の梅原知子氏に話を訊いた。

「ANA's Way(行動指針)を社外に発信したい」

 古田機長が絵本を作ろうと思い至ったのは、2023年のこと。当時、ANAのパイロット部門であるフライトオペレーションセンター(FOC)内でANA’s Way(ANAグループの行動指針)推進を担当していた。

 「それまでにも、ANA’s Wayの理解を深めるために社内でいろいろな活動が行なわれていました。しかし、その理解をより深く浸透させるためには、外からのアプローチが必要なのではないかと考えました。そのためのアイディアが絵本でした。絵本を外に発信することで、社員の家族やステークホルダーの方々を含めた社外の皆さんにANA’s Wayを知っていただこうと思ったのです」(古田機長)。

 社外の人々がANA’s Wayを知る、それが社員との話題となる、あるいはANAグループの社員はそのような行動指針に基づいて仕事をしている人たちだという外部の目が生まれる。そうなると社員は自らANA’s Wayの存在を再認識し、理解を深めようとするだろう、というのが狙いだ。

 そこで絵本という手法が採られた理由については次のように語る。

 「私が小学生か幼稚園ぐらいのときに、ぼんやりと思っていたストーリーがもともとありました。テレビで“大人の絵本が流行っている”という話題を見て、それが噛み合ったのです。物語の起点は、空にあるさまざまな色です。青い空だけでなく、夕焼けや朝焼け、夜なら黒くて星が見えたりします。そこから絵の具を採れるのではないかと想像していたのがスタートです」(古田機長)。

 第1弾の「そらのえのぐ」は、そんな空の写真にオリジナルのキャラクターが描かれている。その絵柄を描いたのが梅原CAだ。先述のとおり、この絵本はパイロット部門であるFOC発のものだ。では、どのような経緯で客室乗務員が関わることになったのか。

 「客室乗務員もさまざまな職場での経験を積むという働き方を推進しており、その一環としてFOCに異動してきました。客室乗務員としては20年の経験がありますが、FOCでは慣れない言葉が飛び交い、経験がうまく活かせずに悔しい思いをすることもありました。ただ、FOCはパイロットだけではなく、それぞれのスタッフも専門性の高い業務をしているだけに、相互理解や信頼関係がとても大切です。唯一特技といえたイラストなら、古田機長の考えを表現して、理解や信頼の促進のきっかけを作れるのではないかと思ったのが参加した理由です」(梅原CA)。

 そのような背景があって生まれた第1弾絵本「そらのえのぐ」。FOCで空の写真を募ったところ、300枚ほどが集まった。そこから選ばれた写真に、梅原CAが描いた「アラナ」「ポポヨラ」「ワーイル」の3人が、空へ飛び出して絵の具を集めるストーリーだ。詳しくはぜひANAのWebサイトから読める実物をご覧いただきたいが、内容はもちろん、集めた色の数もANA’s Wayに基づいたものになっている。

 もちろんFOCは、パイロット中心に高い専門性を持つ職種が集結しており、流動性が限定的だからこそ、職場をよくするには自分たちで動く、そんな意識のもとで協力していった。例えば、写真の募集であったり、予算の管理であったりと、それぞれのことを得意とするメンバーが集まり、作り上げていった。

 そして、出来上がった本は機内エンターテインメントで提供されることになるが、それに先だって、FOCのイベントで社員の家族に配付したという。その時のことを梅原CAは次のように述懐する。

 「写真がすごく綺麗ですとか、実際に自分の目で見てみたいなどのコメントをいただきました。6歳の女の子と中学3年生のお嬢さんを連れて参加してくれたスタッフからは、とにかくキャラクターがかわいく、性格をお天気で表現しているユニークさが面白いと、指を差しながら見てくれたと聞いています。空の世界に夢中になる子供たちの姿を見て、ANAはやっぱりこう自信を持てる会社だということを家族にも紹介できたのはすごくうれしかったという言葉もいただきました」(梅原CA)。

第1弾「そらのえのぐ」(左)と、今回発売された第2弾の「そらのえのぐ」(右)。第1弾はANAのWebサイトで閲覧可能だ。

「もっと広く発信するため、当初から一般販売が目標」

 さて、そのような背景で生まれたパイロット発案の絵本。このたび発売となった第2弾「そらのえのぐ」は、先述のとおりフレーベル館からの刊行となり、一般販売されることになった。古田機長によれば、もともとは販売を第一目標にしていたものの、さまざまな障壁があって、まずは社内で制作した経緯があるという。しかし、“ANA’s Wayを広く社外に発信する”という絵本の目的を達成するには、一般販売が理想だった。

 そして発案から3年。初回の成果もあって、ついに一般販売が実現したのである。ただ、ANAの機内あるいは社員らへの配付のみであった第1弾に対し、今回はより多くの“お客さま”に手に取っていただくことが重要となる。絵本のプロフェッショナルであるフレーベル館からの制作協力を仰ぐことにした。その結果として、第1弾のキャラクターは使わず、空の写真をふんだんに使った絵本とストーリーになった。

 「キャラクターやストーリーの刷新には、少し寂しさはありながらも、読み手の想像力をより掻き立てる手法をうかがい、より一層面白くなりそうだと思いました。創業時から継承している行動様式として、このような変化があった時でも、ここからなにか新しい展開が生まれるのではないか、など、前向きに展開していけるのがANAらしいところだと思います。この第2弾の取り組みをスタートするときは、私はもう本職(の客室乗務員)に戻っていましたので、これまでとは違った距離感で協力し、見守りながらも、新しいメンバーならできるという強い確信を持っていました」(梅原CA)。

 ちなみに、本書は一般販売はされるものの、もともとが“ANA’s Wayを発信するため”のツールとしてスタートしており、収益を目的とはしていない。売上の一部は独立行政法人環境再生保全機構による地球環境基金に寄付されることとなっている。第1弾の本の内容も、大気汚染の空に関連したストーリーが展開されており、本書には美しい空を未来へつなぐ想いも込められているのだ

本書の内容の一部。ANA FOCのメンバーから集めた、美しい空の写真で構成される、空の魅力が詰まった一冊だ。

 最後に、本書の発刊について、また、実際に発売が決まったいま。その気持ちを訊いた。

 「すごいことになったと思いました。3年前、コロナ禍が明けて旅客需要が回復していくなかで、飛行機にお乗りにならないお客さまも含めて、ANAが大切にしているANA’s Wayを知っていただける一つのツールを生み出せたというのは、すごいことだと思っています。また、私は、お客さまからの反応を直接得られるフロントラインで働いているので、実際にご覧いただいた際の反応などをフィードバックすることも役割の一つだと思っています。私は接遇や安全運航の維持の面でのお客さま対応を生業としてきましたため、形に残るものを創り出す仕事の経験はありませんでした。客室乗務員という仕事は、お客さまの喜びや悲しみに寄り添うことはできても、そのやり取り自体を目に見える形として残せるものではありません。今回初めて『形に残るもの』を生み出す機会に恵まれました。今、赤ちゃんの子供たちが成長したとき、再び興味を持ってもらえるような、長く受け継がれるツールを形にできたことを心からうれしく思っています」(梅原CA)。

 「うれしいの一言です。一人では成し得ないことです。幼少期の思いつきにみんなが協力してくれて感謝しています。あとがきにも綴りましたが、私の祖父もかつて空を飛ぶ一員でした。その頃の空と今の空は、同じ空ですがまったく違います。今の恵まれた環境で仕事をさせてもらえていることを、空に携わるいろいろな方と共感しあえるとうれしいという気持ちもあります。この絵本を手に取ってくれた方が笑顔になってくれる。それだけでうれしく思います」(古田機長)。

 もちろん第2弾の写真も、パイロットを始めとするFOCの社員に募っており、約600枚のなかから選りすぐりの空の写真が集まっている。

 また、空のお仕事を紹介するコーナーなどもあり、第1弾とはまた違った魅力を持った一冊になった。現時点で第3弾の話が上がっていないというが、まずは海外向けの他国語版やデジタル版の発売にも期待を示す古田機長。新たな“ANAの絵本”は誕生するのか。今後の動向にも注目したい。

そらのえのぐ

そらのえのぐ

著者:全日本空輸株式会社
制作協力・出版:株式会社フレーベル館
サイズ:約23×23cm(縦×横)
内容:カバー、帯、本文24ページ
定価:1,760円

販売場所:
ANAショッピング A-style、ANAショッピング A-style ANA Mall店、全国の書店、ネット書店

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