特集/本誌より

日本支社長が語る、 躍進する黄色の翼。アジアの空で攻勢するスクート

2012年に就航した、眩しいイエローがトレードマークのLCC、スクート。同じ年に開設した日本路線は現在、3都市から週30便を運航する。シンガポール航空のグループ会社として、同社のネットワークの一翼も担い、両社の一大ハブであるチャンギ空港を通る乗り継ぎ需要も取り込む。そんなスクートの日本支社長を務める比留間さんに、日本マーケットにおける同社の現状やアドバンテージを伺った。
※本記事は月刊エアライン2024年9月号から転載したものです。

文:チャーリィ古庄 写真:チャーリィ古庄
X Facebook LINE
スクート 日本支社長の比留間 盛夫さん。
【スクート 日本支社長】
比留間 盛夫さん
「海外と関わる仕事がしたい」とこの業界に入った比留間さんが初めて飛行機に乗ったのは、20歳のころ。当時、飛行機は正装をして乗るものだと思っていたが、アイルランドへの短期留学中に現地のLCCに搭乗した際、乗客が軽装で乗っているのを見て衝撃を受けた。以来、「こんなに手軽に乗れるエアラインがある」ということをもっと世の中に打ち出すために、いつかLCCで働きたいと思っていたという。

2012年に開設した日本線、現在は4路線30便を運航

 2012年の就航以来、着実にネットワークを拡大しているシンガポールのLCC、スクート。シンガポール航空(SIA)グループの一員として、成田=シンガポール(週7便)、成田=台北=シンガポール(週12便)、関西=シンガポール(週7便)、新千歳=台北=シンガポール(週4便)の計4路線週30便で日本に乗り入れている。そんなスクートの日本における責任者が、日本支社長の比留間盛夫さんだ。

 比留間さんは大学卒業後の2005年、米系の国際航空貨物会社でトラックドライバーとしてキャリアをスタート。その後、成田空港でロードマスターなど貨物機の運航に携わってからは航空業界一筋だ。2010年から台湾のフルサービスキャリアで新路線の開拓やチャーター便の企画を含めた営業を担当し、2014年には東南アジアのLCCの日本地区における営業責任者に就任。貨物、フルサービス、 LCCの3種のエアラインを経験し、2019年5月にスクートの日本支社長として着任した。

 日本を拠点とするエアラインとは異なり、スクートの日本支社は限られた人数で業務を行なっている。そのため支社長である比留間さんも、日本支社のスタッフを管理・監督する支社長としての業務はもちろん、日本マーケットでの営業戦略の計画・遂行、知名度向上や販売促進のためのPR・マーケティング戦略の提案・策定、国土交通省への申請手続きや運航管理に関わる手続きのサポートなど、多岐にわたる業務を担当する。

 さらにシンガポールの本社や他の支社とも定期的にミーティングを行ない、情報共有とスクートブランドのさらなる躍進に向けた戦略を練っている。中でも日本からの直行便があるシンガポール本社や台湾の支社とは密に連携をとっているという。

シンガポール航空のグループ会社であるスクート。クロスセールスなどを通じて連携し、シンガポール・チャンギ空港をハブとする両社の豊富なネットワークを一体的に利用できる。
シンガポール航空のグループ会社であるスクート。クロスセールスなどを通じて連携し、シンガポール・チャンギ空港をハブとする両社の豊富なネットワークを一体的に利用できる。

競争が激化するシンガポール線でSIAグループの強みを活かす

 前述の通り、現在は週30便で日本に乗り入れるスクート。円安の影響もあり、乗客のインバウンドとアウトバウンドの比率は6対4程度だという。ただし、チケットのお手頃な値段も相まって、LCCに対しての先入観が少ない比較的若い年代層の利用が多く、夏休みや卒業旅行シーズンにはアウトバウンドが6割を超える便もある。

 スクートの日本路線はシンガポール直行便のほかに台北経由の便があるが、経由便の乗客は台北が最終目的地の人が多く、シンガポールへ向かう人はやはり直行便を好む傾向にあるという。さらにレジャー客の比率が高いため、シンガポールから乗り継いでインドネシアのバリ島やタイのプーケットなど東南アジアのリゾート地に向かう人が多いほか、クアラルンプールやジャカルタなどの大都市、そしてオ ーストラリアへ乗り継ぐ人もいる。

 SIAグループの一員であるという強みを活かし、コロナ禍以降はシンガポール航空とクロスセールス(双方の販売網で、もう一方の会社のチケットを販売すること)に積極的に取り組み、例えばシンガポール航空の乗客がスクート運航便へ乗り継ぐことができるなど、2社のネットワークを一体化させて提供している。スクート単独では16の国と地域、69都市への就航となるが、SIAグループの路線網も活用することで35の国と地域、120以上の都市へアクセスできるため、乗客のニーズにも柔軟に対応できるのだ。

 そして近年、スクートの日本路線の主力である成田=シンガポール線には、他のLCCによるワイドボディ機での参入が相次いでいる。このように競争が激化している中でのスクートのアドバンテージを比留間さんに伺うと、前述の豊富なネットワークのほかに、3つのポイントを挙げてくれた。

 「まずはSIAグループの一員という安心感です。スクート自体はまだ知らない人も多い航空会社ですが、“シンガポール航空のグループです”というと、安心して乗っていただけることが多いです。さらに機材数が少ないエアラインだと機体トラブルの際に欠航になってしまうリスクも大きいですが、弊社は50機以上の機材を保有しているので、日本を含めたどの路線でも代替機の確保がしやすいこともポイントです。そして、弊社は2012年に就航を開始し、日本路線も同じ年に開設しました。日本マーケットにおける豊富な経験から、最適なネットワークやサービスを提供できることもスクートの強みだと思います」

ボーイング787-8/9、エアバスA320/A320neo/A321neo、そして2024年5月より運航を開始したエンブラエル190-E2の3機種を運航しているスクート。多くのLCCが単一機種で運航するなか、こうして複数機種、それもリージョナル~ワイドボディ機まで幅広く運航するのも、スクートならではの特徴だ。E190-E2はシンガポールの航空会社として初のエンブラエル機だが、搭乗した人からは「新しくて綺麗」と評判も良いという。
E190-E2 Photo: Yuta Warrens/AIRLINE

格安=劣るという意味じゃない、LCCのイメージを覆すために

 今後の日本路線の増便や新規開設について現時点で具体的な計画はないものの、引き続きマーケットを調査しながら最適な路線展開を進めるという。同時に、日本におけるスクートの知名度を向上させ、LCCそのもののイメージも変えたいと比留間さんは考えている。

 「LCCは“格安”航空会社と訳されますが、決してB級品やアウトレット品ではなく“ローコスト”のキャリアで、運航側がさまざまな工夫をしているからこそお手頃な運賃が実現できているのです。例えばシートピッチや通路がフルサービスキャリアより若干狭いですが、それによって座席数を増やして1席あたりのコストを下げています。また座席にモニターがないことから、導入やメンテナンスのコストがかかりません。さらにスクートは平均機齢が6年程度と新しい機材が多いため、快適性が高いのはもちろん、燃料効率の良さがコスト削減にもつながっています」。実際に乗った人から「意外と普通だったね」という声をもらうことがあり、「お客様のイメージを超えられたという意味で、私たちにとっては褒め言葉です」と比留間さんは話す。

 またスクートは株式会社ポケモンの「そらとぶピカチュウプロジェクト」に参画し、ボーイング787-9で「ピカチュウジェットTR」を運航。日本路線にも投入され、乗客からも非常に好評だという。比留間さんも「機材を通してお客様と素敵な時間が共有できれば幸いです」と特別塗装機の効果に期待を寄せている。

 スクートでは有料の機内食にもさまざまな種類があるが、最後に比留間さんのお気に入りを伺ってみた。「“オリエンタル・トレジャーライス”という、和食に近い味わいでありながら、東南アジアも感じられる炊き込みご飯があります。機内でご飯を食べるときは、基本的にこれ一択です」。皆さんも次回スクートに乗る際には、ぜひ注文してみて欲しい。

2022年9月より運航している「ピカチュウジェットTR」。ボーイング787-9(登録記号9V-OJJ)に施されており、成田や関西にも飛来している。運航予定はスクートのホームページで確認可能だ。
2022年9月より運航している「ピカチュウジェットTR」。ボーイング787-9(登録記号9V-OJJ)に施されており、成田や関西にも飛来している。運航予定はスクートのホームページで確認可能だ。
比留間さんおすすめの「オリエンタル・トレジャーライス」。スク ートはこうしたミールから軽食まで、20種類以上のメニューを提供。事前購入限定品もあるので、チケットと一緒に予約したい。
比留間さんおすすめの「オリエンタル・トレジャーライス」。スクートはこうしたミールから軽食まで、20種類以上のメニューを提供。事前購入限定品もあるので、チケットと一緒に予約したい。
Photo:Scoot
学生時代にはアメリカで好きなバンドのライブを見るため、あるいはヨーロッパでサッカーのチャンピオンズリーグの試合を見るためなど、LCCを活用してさまざまな場所へ移動していた比留間さん。LCCの「安かろう悪かろう」というイメージを変え、日本でもこのように気軽に飛行機に乗ってもらえる環境を作りたいと願う。
学生時代にはアメリカで好きなバンドのライブを見るため、あるいはヨーロッパでサッカーのチャンピオンズリーグの試合を見るためなど、LCCを活用してさまざまな場所へ移動していた比留間さん。LCCの「安かろう悪かろう」というイメージを変え、日本でもこのように気軽に飛行機に乗ってもらえる環境を作りたいと願う。
2012年に就航した、眩しいイエローがトレードマークのLCC、スクート。同じ年に開設した日本路線は現在、3都市から週30便を運航する。シンガポール航空のグループ会社として、同社のネットワークの一翼も担い、両社の一大ハブであるチャンギ空港を通る乗り継ぎ需要も取り込む。そんなスクートの日本支社長を務める比留間さんに、日本マーケットにおける同社の現状やアドバンテージを伺った。 ※本記事は月刊エアライン2024年9月号から転載したものです。

関連キーワードもチェック!

関連リンク