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『新しい成田空港』の未来像 〜日本を代表する国際ハブ空港としてのワンターミナル化展望〜
2028年度末に供用開始を予定している新滑走路の整備等をはじめとする“更なる機能強化”事業に加え、空港施設全体の再編を図る『新しい成田空港』構想の検討が進められている。首都圏の空港機能を格段に向上させる、日本の玄関の未来像とは。計画を牽引する成田国際空港(株)空港計画部の本宮進一郎さんにそのビジョンを訊いた。
※本記事は月刊エアライン2024年5月号特集「日本の空の玄関として、成田空港の国際線」からの転載です(一部最新状況を反映)。なお、当該号掲載のイメージ図「新ターミナルと滑走路の使用イメージ」内の運用制限の記述に誤りがありました。読者および関係者の皆さまにお詫び申し上げますとともに、本記事において訂正させていただきます。訂正箇所は以下URLからもご確認いただけます。
https://books.ikaros.jp/news/n105306.html
『新しい成田空港』構想のアウトライン
新たな滑走路とターミナルで将来の需要増加に着実に対応
世界の航空需要はコロナ禍で大きく落ち込んだものの順調に回復しており、今後も中長期的な成長が見込まれる。成田空港では3,500mのC滑走路の新設と既存2,500mのB滑走路を延伸する“更なる機能強化” 事業について2020年1月31日に航空法に基づく空港等変更許可申請の認可を受け、現在は本格工事に先立つ準備工事などが鋭意進められている。これらの供用は2028年度末を目途とされており、それに大きく遅れることなく、新旅客ターミナルや新貨物地区などの検討が進められている。
まずは“更なる機能強化” 事業により、現在30万回の成田空港における年間発着容量は新たに20万回増加して50万回となり、羽田空港と合わせて首都圏空港で約100万回の発着容量を得ることとなる。2空港で担う、首都圏の空港機能。その中でも成田空港の役割はどのようなものだろうか。
【本宮さん】
これまで、乗継便が集中する時間帯の発着枠不足などにより、アジアのライバル空港に比べて、乗継旅客シェアが低下していましたが、新滑走路の新設に伴い、この発着枠不足は改善されることとなります。
今後はインバウンド需要だけでなく、成田空港の地政学的優位を活かして、アジア・北米間の三国間流動の受け皿となることが期待されています。
また、国際線のイメージが強い成田ですが、現在は国内線だけでも全国第6位の旅客者数を有します。これら国際線・国内線の乗継需要も取り込んだ、「世界とつながる多様なネットワーク」をもつ国際ハブ空港こそ、成田空港の目指すべき姿、果たすべき役割と考えています。
国際ハブにふさわしいワンターミナルへ
アライアンス内に収まらない航空ニーズにも柔軟にフィット
滑走路の整備とあわせて進められているのが、下記の4点の構想だ。
①旅客ターミナルを再構築し、集約型のワンターミナルへ
②新貨物地区の整備により、航空物流機能を集約
③様々な選択肢で空港全体としての最適アクセスを実現
④地域と空港との相互連携による一体的・持続的発展
今年2月6日に行なわれた第6回構想検討会では、旅客ターミナルについて議論された。
ワンターミナル化については、2023年3月に公表された中間とりまとめにて提示され、現在はターミナルの形状を含めた検討の深度化が進められている。新ターミナル建設の場所としては、3本の滑走路の配置とバランスが取れる、現在の第2ターミナルの南側を予定している。
【本宮さん】
成田空港では、2006年6月の第1旅客ターミナルグランドオープンを機に航空会社の再配置を実施しており、基本的には同一ターミナルビルに同一アライアンスというコンセプトで配置されています。しかしながら、近年では3大アライアンスの枠組みに収まらない航空会社間の多様な連携や国内外LCCの就航、国内線LCCの成長による国際線と国内線の乗り継ぎ利用など、ターミナルをまたぐ乗り継ぎが増加しています。
分散するターミナルを1つに集約することで、CIQ(税関・出入国管理・検疫所)や複数に分散する設備だけでなく、グランドハンドリング等の人的リソースも集約できます。省人化・効率化に貢献できるとともに、変化の激しい航空ニーズに対しても柔軟性を備えることができると考えています。
また、乗り継ぎ時の保安検査を省略することで、乗り継ぎ時間短縮、空港内滞在時の利便性向上につながるワンストップセキュリティー(注釈)といった取組みも重要になります。現在はアメリカとの間でのみ実施しています。今後も国際ハブとして、このような取組みを増やしていけるかどうかが重要になります。
※注釈:乗り継ぎ旅客の保安検査を省略できる制度。現在は、北米発便のみ対象。
気になる新ターミナル新設への道程
建設期間はこれから。まずは、規模と形状の検討から
2023年12月6日には、C滑走路新設のための準備工事がスタート。2028年度末の供用を目指して工事が進められる。NAAとしては、滑走路の供用開始から大きく遅れることなく新ターミナルを建設したい考えだが、まずはターミナルの規模・形状の検討を進める必要がある。また、いわゆる空港での手続き機能のほかにも同時に考慮すべき点があるという。
【本宮さん】
到着エリアは海外から来日するお客様にとって、初めて日本に触れる場所です。ですから、今まで以上に日本らしさを感じることができる空間演出を取り入れ、日本を印象づけられるような施設を目指します。日本らしさは伝統的なものにとどまらず、アニメやゲーム、デジタルアートなどのコンテンツによる空間演出も考えられると思います。
また、出国手続き後エリアのリテールエリアについても見直す必要があります。2023年9月1日に第2ターミナルの出国手続き後エリアにオープンした飲食店フロア「JAPAN FOOD HALL」の需要も堅調ですので、ニーズにあわせたリテールエリアの展開を検討していきます。さらに、免税店や飲食店だけでなく、出発までの時間を楽しめる施設、たとえばアムステルダム・スキポール空港やトロント空港のような美術館、ドーハ・ハマド空港のような散策できる公園など、旅を彩る空間演出やサービスの提供も重要だと考えています。
最後に、旅客だけでなく、周辺地域の方々やフライトを目的としないお客様も楽しめる前面エリアを含めた施設を検討していきたいと考えています。シンガポール・チャンギ空港の「ジュエル」やスイス・チューリヒ空港の「ザ・サークル」といった事例に注目しています。
そして、新ターミナルとともに『新しい成田空港』構想の要になるのが、新貨物地区の整備だ。B滑走路とC滑走路の間に航空物流機能を集約し、直送需要とともに三国間継越(つぎこし)需要も取り込んだ旅客・貨物を両輪とした航空ネットワークの維持・拡張を目指す。『新しい成田空港』構想が実現した暁には、成田空港の東アジアにおける国際ハブ空港としての存在感は一層と大きなものになるだろう。
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